ワクチンとは

ワクチンについて

私たちの身の回りには、細菌やウイルスによって引き起こされるさまざまな感染症があります。これらの感染症発症を未然の防ぐためにもっとも有効かつ確実な手段が“ワクチン”です。ワクチンは、感染症の原因となるウイルスや細菌を精製・加工して、病原性(毒性)を弱めたりなくしたりして、体にとって安全な状態にしたものです。
本当にかかってしまう前にワクチンを接種して、その感染症に対する抵抗力(免疫)を作っておこうというわけです。

子どもの免疫とワクチン

子どもの感染症は予防が第一です

乳幼児期には免疫(病気に対する抵抗力)が未発達なため、さまざまな感染症にかかります。そして感染していくことで免疫をつけながら成長していくのです。でも、子どもがかかりやすい感染症は、かぜのように軽いものだけではありません。中には、確実な治療法がなくて、深刻な合併症や後遺症をおこしたり、命を落としたりする危険がある病気もあります。そうした感染症は、かからないようにまず予防することが大切です。

ワクチンこそ、もっとも安全な予防方法

感染症を予防するのに、安全で確実性の高い方法が、ワクチンの接種です。ワクチンは、病気を防ぐために必要な免疫を安全につける方法です。ワクチンを接種することで、子どもたちを病気から守ることができます。
でも、すべての感染症に対してワクチンが作れるわけではありません。ワクチンで防げる病気(VPD)は、ごく一部にすぎません。ワクチンを開発するのはとても難しいことで、困難を乗り越えてまでワクチンが作られたのは、それが重大な病気だからです。VPDはいったん発病すると、現在の医学でも根本的な治療法はないか、治療がとても難しいのです。
せっかくワクチンというすぐれた予防法があるのに、使わないのはとてももったいないことです。大切なわが子を守るためにも、ワクチンのメリットを最大限にいかしましょう。

子どものかかりやすい、主な感染症(~VPDとVPDでないもの~)

VPDの感染症(ワクチンがある→予防が可能な感染症):

 ・麻疹(はしか)  ・おたふくかぜ    ・風疹    ・水ぼうそう

 ・ポリオ      ・インフルエンザ   ・結核    ・小児の肺炎球菌感染症

 ・ジフテリア    ・B型肝炎      ・破傷風   ・A型肝炎

・百日咳      ・ヒブ感染症     ・日本脳炎  ・ロタウイルス胃腸炎

VPDでない感染症(ワクチンがない→予防が難しい感染症)

 ・突発性発疹         ・ヘルパンギーナ

 ・手足口病          ・伝染性紅斑(りんご病)

 ・咽頭結膜炎(プール熱)   ・とびひ

 ・マイコプラズマ肺炎     ・尿路感染症   ・・・・・・その他

発達途上にある子どもの免疫を助けるために

生まれたばかりの赤ちゃんは、へその緒を通じてお母さんから免疫(抗体)をもらいます。このお母さんからもらう病気の抗体は、生後6か月くらいまでにはなくなるので、その頃からかぜによくかかるようになります。

こういう話を聞くと、生まれてすぐは大変免疫力が強いと考えてしまいそうですが、実は逆。確かにお母さんからもらった抗体が大変役に立つ病気もあります。しかし、免疫というのは抗体(免疫グロブリン)だけではなくて、他の免疫成分(細菌を食べる好中球、免疫を作ることなどに関係するリンパ球、補体など)も、とても重要です。
これらを含めて総合的な免疫力を比較すると、生まれてすぐが一番弱く、6か月過ぎになると少しよくなってきますが、2歳くらいまでは低い状態が続きます。6歳頃になってやっとおとなのレベルに近づきます。また、病気にかかるかどうかは、感染症との接触の機会が多いかどうかも関係します。そのため、たとえば、肺炎球菌やヒブなどの菌が簡単に子どもの免疫システムを通り抜けて、細菌性髄膜炎(さいきんせいずいまくえん)や敗血症など重大な病気を起こしやすいのです。麻しん(はしか)や百日せきなども、年齢が低いほど重症になりやすい病気です。
こうした病気を防ぐ助けになるのが、ワクチン(予防接種)です。

ワクチンのしくみ

自然感染よりはるかに安全に免疫をつくります。

子どもが麻疹(はしか)に自然にかかって治ると、「この子はもう、麻疹にはかからない」と言われますね。これは、子どもの体内に麻疹に対する免疫ができるからです。*

ワクチンは、こうした自然感染と同じしくみで、私たちの体内に免疫を作り出します。ただし自然感染のように実際にその病気を発症させるわけではありません。コントロールされた安全な状態で免疫を作り出します。ですから、接種後に症状が出ず、たとえ症状が出ても大変軽いのが特徴です。他の人へうつさせない点も、ワクチンの利点です。
しかし、自然感染にくらべて生み出される免疫力は弱いため、1回の接種では充分でなく、何回かに分けての追加接種が必要になることがあります。

*ただし、麻しんなどに自然にかかっても、終生免疫(一度感染すると生涯その病気にかかることがない)ができるのではないことが、わかってきました。

自然感染の場合      ワクチンの場合

 重症化する危険性   高い           ほとんどない

 他人に感染      感染しやすい       しない

 作られる免疫     強い           少しだけ弱い

ワクチンにはどんな役割があるの?

まわりの大切な人々のために

ワクチンの大切な3つの目的

ワクチンを接種する大切な目的として、次の3つをあげることができます。

1.自分がかからないために
2.
もしかかっても症状が軽くてすむために
3.
まわりの人にうつさないために

1.と2.はワクチン接種を受ける本人のための目的です。ワクチンが「個人防衛」と呼ばれる理由です。3.は自分のまわりの大切な人たちを守るという目的です。自分の子どもがワクチンを受けずにVPDにかかってしまい、弟や妹、おなかの赤ちゃん、お友だちなどにうつしてしまったら大変です。ワクチンの「社会防衛(集団免疫)」と呼ばれる一面ですが、「社会」といっても、自分のまわりの大切な人たちを守るということですね。

1人はみんなのために、みんなは1人のために

ワクチンを接種できる人たちが、きちんとワクチンを受けることにより、地域社会でVPDの流行を防ぐことができます。VPDが流行しなければ、免疫力の弱い人たち——ワクチンを受ける年齢になっていない赤ちゃん、おなかに赤ちゃんのいる妊婦さん、病気のためにワクチンを受けたくても受けられない人、体力の低下した高齢者、ワクチンは受けたけれど実際には免疫が充分についていない人など——も、VPDから守られます。
もしかしたら、ワクチンを受けたはずの自分の子どもに免疫が充分についていないことだってあるかもしれません。1人はみんなのために、みんなは1人のために——ワクチンの接種は、自分のため、そしてみんなのためだということを、忘れないでください。
また、生まれたらすぐにすべてのワクチンを受けられるわけではありません。多くの人が、受けられる年齢までその病気にかからないで済むのは、多くの“先輩”達が受けていて、大流行を抑えてくれたからです。ワクチンを受ける時にこれらの人たちに感謝することも忘れないでください。

現代社会で高まる予防の大切さ

子どもも、おとなも感染しやすい環境に

最近では、赤ちゃんや小さな子ども同伴のレジャー、ショッピング、外食などが日常的になりましたね。また働く女性が増えて、保育園などで集団生活を送る子どもも増えています。このように子どもが人の多く集まる場所に長時間いることが多くなると、それだけ感染症にかかる機会が増加します。
子どもだけではありません。2007年に全国の大学で起こった麻しん(はしか)の集団発生のように、若者のVPD流行もありますね。どうしてこのような流行が起こるのでしょうか。ある程度までワクチン接種がすすむと、VPDの流行が抑えられてきます。すると、患者との接触の機会が少なくなり、結果的にワクチンでいったん獲得した免疫が弱まりやすくなるのです。また、ワクチンを接種していなくても、かからないまま成人になる人も増えてきます。このようなことから、成人でもVPDの流行が起こると考えられています。
乳幼児はもちろん成人も、みんなが適切にワクチンを接種して、必要な免疫をつけておくことが、とても大切なのです。

薬剤耐性菌(やくざいたいせいきん)のために治療が困難になるケースが増えています

今、抗生物質乱用などによって、抗菌薬が効かない菌(耐性菌)の増加が問題になっています。特に、子どもの細菌性髄膜炎(さいきんせいずいまくえん)を引き起こすヒブや肺炎球菌では、耐性菌は深刻な問題です。抗菌薬の効果が不充分だと、治療をしても、死亡したり後遺症を残したりするからです。残念ながら日本では、これらの重い感染症を予防するためのワクチンの導入が、世界的に見ても大変遅れています。
ワクチンは、感染症そのものを防ぐだけではありません。抗菌薬の適正な使用を図り、耐性菌の増加を防ぐためにも、とても重要な意味を持っているのです。