Dr.Kの挑戦(第3回)動脈硬化、サルコペニア、感染症

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健康寿命延伸のための戦略(3つのK)

 自己犠牲的に職務に邁進している勤務医を疲弊させないように、開業医ができることは何か。勤務医としての経験から、今一介の開業医となった自分が関わることができる3つの予防医療的・投資型医療の3本の柱について自説を述べたい。

①人間は血管とともに老いる。これは有名なウイリアム・オスラー(カナダ、米国、英国の医学の発展に多大な貢献をし、医学教育にも熱意を傾け、今日の医学教育の基礎を築いた)の言葉とされているが、非常に的を得た名言がある。血管の老化、いわゆる動脈硬化の初期段階を早期に発見し介入することで、終末像である脳梗塞や心筋梗塞発症による入院治療の危険性を減らす。

②筋肉や骨の加齢性変化のスピードを可能な限り減速させ、骨折・寝たきり・認知症発症のリスクを減らし、負の連鎖を食い止めるように食事・運動介入する。

③感染症の重症化を防止するように、ワクチン(肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチン等)を積極的に導入し啓蒙する。小児のワクチンに関しては、次回以降で紹介したい。

  • ①に関しては、動脈硬化の進展に深く関与する疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満等)の健診などを利用した早期発見と、動脈硬化の進行度を把握(頸動脈エコーや血管年齢を推定する脈波伝搬検査)して、エビデンスの基づいた介入(食事、運動、薬物)を早い段階ですることが非常に重要である。

 当院で展開する予防医療・投資型医療の治療方針を表す2つの医学概念である、レガシー・イフェクト(Legacy Effect)とメタボリック・メモリー(Metabolic Memory)については、第4回以降で労働衛生コンサルタントとしての視点からも解説予定である。

  • ②に関しては、DEXA法という世界基準の検査で大腿骨と腰椎の骨密度測定、四肢の筋肉量の測定をし、加齢性変化を上回る受診者に対しては、エビデンスに基づいた食事介入と運動介入を始め、成果を確認しながら更なる必要な介入を検討してゆく。なお、認知症に対しては、不必要な薬物介入は極力回避し、毎週の来院などで運動量の増加を図り、家庭で孤立させないで社会との接触機会を増やすことで重症化を防止する試みを始めている。
  • ③に関しては、加齢に伴う嚥下機能の低下から、毎日のように発症を経験した嚥下性肺炎の嵐、勤務医の疲弊を背景とする高次医療機関の受け入れ不能、その結果入居施設での抗生剤投与による偽膜性腸炎の発症、在宅酸素療法導入のなかで、一医師として至った一つの結論がワクチンによる重症化予防である。作業療法士がいれば嚥下リハビリ等の導入による誤嚥性肺炎のリスク低減が期待できるが、小さなクリニックではそんな潤沢な人的資源は期待できない。ワクチン投与と口腔衛生、発声練習や舌の運動など導入し、効果を検証し論文化する予定だったが開業に伴う辞職で中断しているが、データを蓄積して発信していきたいと考えている。