第1回 ロタウイルスワクチン(ロタリックス、ロタテック)で1型糖尿病が3割減

20年後に1型糖尿病の激減が期待できる可能性

2019年06月25日
 米国の小児147万人超の医療保険データを解析した結果、ロタウイルスワクチンを完全接種した小児は未接種の小児に比べ、その後の1型糖尿病発症率が33%低いと判明した。加えて、米国では未接種や不完全接種の小児が多い実態も明らかになった。

上記論文の最重要点は以下の3点です。

  1. 不完全接種では低下せず
  2. 特に5価ワクチン(ロタテック)で37%低下
  3. ワクチン導入時期に一致した低下傾向

1.不完全接種では低下せず

 米国では2006年に初めてロタウイルスワクチンが導入され、現在は2回接種の1価ワクチンと3回接種の5価ワクチンの2種類が用いられている。米疾病対策センター(CDC)は、生後15週以内に第1回目のワクチンを接種し、生後8カ月以内に全ての接種を終了(完全接種)するよう推奨している。

 全米規模の医療保険データベースClinformatics DataMartから、2001~17年に出生した小児147万4,535例のデータを抽出、解析した。 未接種児に比べ完全接種児では41%の1型糖尿病発症率の低下が認められた(発症率比0.59、95%CI 0.43~0.73)。一方、不完全接種児では、未接種児に比べて1型糖尿病発症率の低下は認められなかった(同0.99、0.75~1.30)。

 2006~17年に出生したロタウイルスワクチン未接種の小児に比べ、完全接種した小児では1型糖尿病の発症リスクが33%低かった。

 2006~17年に出生した完全接種児と2001~05年に出生した未接種児を追跡期間5年で比較したところ、1型糖尿病発症率は10万人・年当たり9.3と20.5で、完全接種児では未接種児に比べ1型糖尿病発症リスクが55%低下しました。

2.特に5価ワクチンで低下

 ワクチンの種類別に見ると、1価ワクチン(ロタリックス)を完全接種した小児では27%のリスク低下が認められたのに対して、5価ワクチン(ロタテック)を完全接種した小児では37%とリスクの低下度が大きかった。未接種児に比べ完全接種児ではワクチン接種後60日以内の入院が31%低下しました。

3.ワクチン導入時期に一致した低下傾向

 経時的な変化の解析では、2006年のロタウイルスワクチン導入と呼応するように、米国では2006~17年に0~4歳児における1型糖尿病発症率が年間3.4%低下していました。この結果は、オーストラリアでロタウイルスワクチン導入後に1型糖尿病発症リスクが14%低下したという最近の研究の結果と一致しています。
 また、ロタウイルスは1型糖尿病患者で傷害される膵細胞と同様の細胞をロタウイルスが傷害するという実験結果とも一致しています。

 論文の著者であるRogers氏は「観察研究であるため因果関係を示すことはできない」と研究の限界を指摘した上で、「ロタウイルスワクチン接種により、小児の1型糖尿病発症リスクが低下することが示された。ロタウイルスワクチン接種は、1型糖尿病の予防に貢献しうる初の実用的な対策となる可能性がある」と結論づけています。さらに、「毎年、完全接種児が10万人に達するごとに1型糖尿病の発症は8例減少する」と推算し、「ロタウイルスワクチンの普及に伴い、今後は1型糖尿病の新規発症が減少することが期待される。しかし、今回の研究結果に鑑みると、それは親が児にワクチンを接種させるかどうかにかかっている」と付言しています。

 医療技術の発達で1型糖尿病治療を取り巻く状況は大きく進歩していますが、1型糖尿病の発症は患者さんのQOLを大きく損ないます。2020年10月からロタウイルスワクチンは定期接種化されます。20年後に1型糖尿病の発症が激減して、患者さんに大きな恩恵がもたらされ、患者さんに苦痛を強いる治療や費用負担が陳腐化するように、最前線の開業医として親たちの意思決定のヒントとなるように、ロタウイルスワクチンの情報提供を積極的に推進していく必要があると痛感しています。

 最重要点3の怒涛の反復です。

  1. 不完全接種では低下せず
  2. 特に5価ワクチン(ロタテック)で37%低下
  3. ワクチン導入時期に一致した低下傾向

JAMA Pediatr 2019; 173: 280-282