寛解を目指す糖尿病治療戦略
インクレチン(膵臓のランゲルハンス島β細胞を刺激して、血糖値依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン)時代になって、糖尿病治療が劇的に進化しています。チーム医療が展開できる大病院とほぼ同等の糖尿病治療が、街角の小さなクリニックでも可能になっています。これまで数多くの糖尿病患者さんの治療に携わってきましたが、糖尿病治療に関しては専門外の医師でも結果(HbA1cなどの血糖コントロールの指標)を出して当たり前となり、医師の力量が問われる時代に突入しています。逆に、専門外の医師の方が固定観念やしがらみから距離を置いて新鮮な視点で目の前の患者さんに対峙できる場面が多くなってきています。
現在、糖尿病治療を取り巻く環境の中で、自分なりに問題となっていることを挙げてみます。まず、日本は労働安全衛生法によって毎年の企業健診が義務づけられ、勤労者の糖尿病の早期発見のシステムが世界の先頭を切って出来上がっていますが、企業のトップの方たちに従業員の健康が経営上の最大の資源であるという「健康経営」という経営戦略を考える気持ちの余裕がないために、糖尿病の早期治療介入につながっていないことです。このことに関しては、Dr.Kのコラム・連載(Dr.Kの挑戦)の中ですでに詳述していますのでご一読ください。次に、糖尿病患者さんに対して、スティグマ(烙印)を押してしまい、アドボカシー(患者擁護)の視点が欠落することが多く、患者さんに寄り添うというより上から目線の指導・治療につい走ってしまいがちになることです。
さらに、インクレチン時代になり、様々な糖尿病治療薬が上市され臨床応用できるようになって患者さんにとって計り知れない恩恵をもたらしている反面、血糖コントロールの指標であるHbA1c至上主義のために治療が複雑化しすぎて、患者さんの心理的負担・金銭的負担が増している可能性があると感じています。最後に、海外での大規模臨床研究のエビデンスを踏まえてではあるが、この高齢社会の時代において医師の敗北宣言ともいえるような高齢者糖尿病ガイドラインなるものが発表され、治療の免罪符となりかねない状況になっています。
以上のような私なりの糖尿病治療に関連する問題点を解決すべく、自院なりの治療戦略の概略を披露します。
- Metabolic Memory(高血糖の記憶)を洗い流して、Legacy Effect(遺産効果)を引き出す
- 事後措置的(Reactive)でなく先見的(Proactive)な治療で寛解を目指す
- インスリンからの解放を目指す(インスリン難民を減らしたい)
- 2型糖尿病の病態を踏まえた簡単明瞭な治療を目指す
- より質の高いHbA1c達成を目指す
- スティグマ(烙印)を押さないで、アドボカシー(患者擁護)を目指す
詳細な内容については今後順次掲載予定ですので、ご期待ください。